フクロライオン2

フェミニストゲーマーのテキスト

ゲーム『8番出口』についての批評

 制作者は将来有望だと感じる点がいくつもあるので、未来への投資と思えば粗削りな部分に目をつぶれなくもない。しかし本作のみの評価としては、容易に修正できそうな瑕疵により作中世界の確度に欠ける点と、それがゲームプレイにも影響することから、必ずしも良いとは言えない。 以下に詳細を述べる。

 

 トータルで「頑張ってる」と評価したいが、配信適性は十分にあった。とは言うものの、ほとんどのシングルプレイゲームにとって、配信は本質的に有害であり、特に『8番出口』の様なシチュエーションホラーにおいてネタバレはゲームの価値を全損すると言っても差し支えない。配信を通じて全ての異変を知った人は、制作の想定するゲーム体験を得られない。およそゲームとは観察と思考による自説を実践(プレイング)することで得られる結果が報酬となるが、『8番出口』はこの実践の比率が極端に低いタイプのゲームとなっている(例えばアクション性が高いゲームであれば、実践の比率が高まり、その再現を試みるだけでも一定の個人的ゲーム体験は得られる)。
 観察と思考のプロセスを配信によってトレースしてしまえば、それ以上のモノ、つまり個人的ゲーム体験は得られず、プレイする価値は著しく損なわれる。つまりこの場合の配信適性というのは、認知度の上昇がゲームの評価(他人のプレイングによる発見等)や、プレイ欲求を喚起し、売り上げに影響するという類のものではない。短いセンテンスで繰り返されるシチュエーションの中で、異変の見落としをコメントによって煽ることが容易な点や、髪の毛のテクスチャの低質さからうかがえる、ゲームとしての軽いムード等がベースとなって、配信上のコミュニケーションツールとしての手軽さ、利便性をもって"配信適性がある”と評価している。
 またこのゲームにもRTA走者が存在し、そのためにネタバレ済みであっても購入し繰り返しプレイするケースもあり得る。だが、それをもって「RTAが『8番出口』のアクション性を高め、クリア速度を競うことでリプレイ性が高まるために、ネタバレを受けてもゲーム体験が損なわれることが無い」とはならない。

 

 ホラーゲームとしてのフェアネスは比較的高い。明らかにアンフェアに感じた異変は「ポスターが徐々に大きくなる」という1つくらい。他の異変は閉塞感のある地下鉄通路において、脱出のための前進を躊躇わせるほどの不安や恐怖があり、最低でも違和感を与えられるだけの異変として演出されている(ドアノブの様にアンフェア要素の強い違和感もあるが)。間違い探しに終わりたくないという努力の痕跡はうかがえた。同時にあまり質が高いとは言えない点もある。特に髪の毛のテクスチャの低質さにそれが表れていて、低価格ゲームとしての開き直り、馴れ馴れしさがある。異変を感じさせるためには、確度の高い平常が要求されるが、その平常の描写については雑と言わざるを得ない。特に監視カメラの配置は異変といって差し支えないクオリティであり、そうした予算に関わりの無い作りこみの甘さ、ツッコミによってようやく補完される程度の脇の甘さは、配信適性という視点からは左記の様に評価になり得るが、ゲームとしては制作がプレイヤーに手心を要求するものであって、美意識の欠落を感じる。
 だが一方で、ホラーゲームとして異変の演出に対するフェアネス指向を感じることもあった。このちぐはぐさ、粗削りであることそのものがツッコミ要素として評価され得ることは、配信を避けられない現代のゲームにおいて触れずにはおれないが、その評価はクリエイターにとり不名誉であるし、もっと磨いて、隙の無いゲームを制作することを期待している。
 このガッカリ感はZ級サメ映画がジャンルとして成立してしまったことへの失望に似ている。クオリティの低さをネタ消費してしまうことを許すというのは、いわば制作と観客、プレイヤーの馴れ合いであって、それは文化の衰退を招く。

 

 OPタイトルやルール説明なく突然プレイアブルな状況でゲームが開始するのはシチュエーションホラーの演出で、観客やプレイヤーはまずルールを探ることから始めなくてはならない。そうした演出は、低予算ゆえの作品世界の狭さ、小ささを隠すためでもあるが、同時に画面内を注視し発見を重ねることは、没入感を強め課題をクリアする快楽を生む(この没入感を阻害するものとして、左記の低質なテクスチャや監視カメラの配置が相当する)。
 この予算等の制作側都合と作品世界の確度を高めるという一石二鳥の演出だが、それはプレイヤーが与えられたルールを受け入れる、ルールに囚われるという点で、実社会では歓迎されない迎合でもある。こうした矛盾については、それに従わざるを得ない過程が描写される等のフォローが入ることもある(映画『ソウ』等)。
 
本作はこれらハードルに対して比較的丁寧に作りこまれている(本作の場合は大胆な省略が功を奏している)。現実においても地下鉄通路に覚え得る恐怖があり、こうした現実と地続きの世界に没入感は高まる。それだけに、再三言及している瑕疵が目立ってしまう。
 それらは作品世界の棄損だけでなく、プレイする上でのユーザビリティにも影響する。すなわち、作中の事象について「どの水準から異変と見なしてよいか」という疑問が生じる。監視カメラやすれ違う男性のクオリティの他、にも業務用扉は明らかに小さく、プレイヤーキャラクターの足音の定位にも違和感がある。「異変を見つけるゲーム」には確かな平常が求められるのだから、これらについては異変の数を増やす以上に注力すべきだった点であると思う。こうしたクオリティの低さによって、プレイする上で異変の定義や発生ヶ所の把握が遅れたのは間違いない。

 

 冒頭の通り将来有望に感じる点も多く、「頑張っているな」と思わせるゲームではあるが、同時に一見して容易に気づき、修正できそうな瑕疵を放置し、それが作中の確度だけでなくゲームプレイにも影響するとなると、もう少しちゃんと作ってくれと文句の1つも言いたい。というのが本作に対する評価となる。

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